IPv4枯渇問題

有限個数のIPv4アドレス

皆さんご存じのように、インターネットの基盤技術であるインターネットプロトコルでは、インターネット上に接続されているホスト(コンピューター)をIPアドレスという番号で表現しています。現在のインターネットでは、IPアドレスは、IPv4と言われるバージョンが使われています。

IPv4で使われるIPアドレスのことをIPv4アドレスと言いますが、このIPv4アドレスは、32bitの整数値で表現されています。たとえば、皆さんは、IPアドレスを入力するときは、192.168.100.100のように4つの整数を用いて入力しますが、実はこの1つ1つの数字が8bitの整数を意味しており、全部で8(bit)×4(つの数字)の32bitということになるのです。

32bitの整数で表現されるということは、逆にいえば、IPv4アドレスの個数は有限であるということができ、有限であるということは、いつかはなくなってしまうということを意味しているのです。

では、いったいどれくらいの数のIPv4アドレスを使うことができるか、というと、IPv4アドレスのすべてが使えるわけではなく、たとえばプライベートIPアドレスのようにインターネットで使うことが禁止されているIPアドレスや、技術的に特定の用途用に確保されているIPアドレスもありますから、これらをすべて除くと約37億アドレス実際に利用できることになるのです。


今どれくらい使われているの?

今現在、いったいどれくらいのIPv4アドレスが使われているのでしょうか?

この様子を毎日確認できるウェブページをAPNIC(Asia Pacific Network Information Center)のGeoff Huston氏が「IPv4 Address Report」として公開しています。

IANA Allocations - Projections
IPv4 Address Reportより抜粋

図では、IANAというIPv4アドレス全体を管理している組織におけるIPアドレスの使用量の推移をあらわらし、2008年2月以降は、3種類の数学的な予測によって線が引かれています。予測の部分は後で解説しますが、現在利用されているIPv4アドレスは2008年2月の部分にあたります。グラフの縦軸の頂点は250となっていますが、IPv4アドレスのうち一般に利用できるものは、224までですから、残りわずかなことがすぐにわかります。2008年2月現在、残りの数は、/8換算(24bitを1つの単位と数えます。)で41個となっています。


いつIPv4アドレスは枯渇するのか?

IPv4アドレスの残りが少なくなってくると、「いつIPv4アドレスがなくなるのか?」という疑問が湧き、そして、「無くなった時何がおこるのか?」という疑問も同時に湧きあがります。これがいわゆる「IPv4枯渇問題」なのです。

IPv4アドレスがいつ無くなるのか?というのは、大変難しい問題です。IPアドレスは、インターネットがどれだけ普及したか、また、どのようなアプリケーションがIPアドレスを必要とするのかという、「インターネットの使われ方」で大きく変わります。現状の使用量と今までの使用推移から数学的に求めた結果は、先ほどのGeoff Huston氏が公開しているグラフからわかります。予測のなかで有力と思われるのが線形増加(図中の緑線)と指数増加(図中の赤線)です。この予測方法をもとに枯渇時期の予測を行っている「IPv4アドレス枯渇時計」というものもあり、これについてはこのウェブの左側にも表示しています。

これによると、枯渇の時期は2011年ぐらいとなります。意外とすぐにやってくることがわかります。


本当にIPv4アドレスは枯渇するのか?

IPv4アドレスの枯渇問題と付き合うと、常にこの問題に直面します。結論から言うと「よくわかりません」。

たとえばこう考えてみましょう。IPv4の枯渇時期が近付くと、IPv4アドレスを利用したインターネットは、将来性がなくなり、あまり魅力的ではなくなってきます。すると、おのずとIPv4を用いたインターネットは衰退し、次世代のインターネットに推移していきます。すると、IPv4アドレスが枯渇していなくても、利用者自身がIPv4のインターネットではなく、次世代のインターネットを利用することになり、IPv4アドレスは結果的に枯渇しない可能性もあるのです。

一方で、次世代のインターネットへの移行が間に合わず、多くのIPv4利用者がいるなかで、そのままIPv4アドレスが枯渇してしまうことも考えられるのです。

では、IPv4アドレスを他の組織から購入すればよい。と考える人たちもいます。さて、これは現実的なのでしょうか。IPv4アドレスの消費動向は、現状では/8換算で年間約10個が消費されています。使われていないIPv4アドレスをIPアドレスを管理している「インターネットレジストリ」が回収したとしても、その量は10個程度が限界だろうとも言われていますから、すでに割り振られているIPv4アドレスが売買されるほどの量が出回るとは、どんなに甘い見方をしても現実的と考えるのは難しいと言えるでしょう。

いずれにせよ、インターネットの利用人口は、世界的な動向からしてまだまだ増え続け、それに伴いIPアドレスの需要は高まりますから、次世代のインターネットのアドレスが利用されるか、もしくはIPv4アドレスが継続的に利用されたとしても、結果的に次世代のインターネットへの移行なくしては、将来的なインターネットは無いものとなってしまうのです。


次世代のインターネットとは?

IPv4アドレスの枯渇は、今のインターネットの基盤を継続的に利用することを阻害します。このことは、10年ほど前からIETFというインターネットの標準化団体で検討され、さまざまな協議の結果、「IPv6」というインターネットプロトコルのバージョン6を次世代のインターネットプロトコルとすることに決定されています。

IPv4の次がなぜ、IPv5ではなくIPv6なのか。それは、IPv6が選ばれて行く過程が影響しています。次世代のインターネットプロトコルを決定するに当たっては、インターネットコミュニティから様々な提案がされました。この過程でIETFでは、いくつかのバージョンのインターネットプロトコルを策定しました。ちなみに、IPv5はRFC1190、IPv7はRFC1475、IPv8はRFC1621そしてIPv8はRFC1347にまとめられています。詳しくは、IETFのバージョン番号の割り当て表を参照してみてください。

IPv4からIPv6への移行には、さまざまな問題があります。一番大きい影響は、IPv4とIPv6は基本的に互換性がない、という点です。つまり、IPv4のネットワークは、原則IPv6には直接接続できないということです。このほかにも移行に関してはさまざまな問題もあるほか、IPv6自身も運用が十分されていないことから、運用上の問題をはらんでいる部分もあります。当然、これらに関する批判も多いわけですが、今重要なことは、これらの問題をいかにしてインターネットコミュニティと協力して回避・修正していくかということなのです。新しいプロトコルをこれから作ることも可能ですが、IPv6がここまで成熟するまでにすでに10年近い年月がかかっていることを考えると新しいプロトコルを採用すべき時期は過ぎていると言わざるをえません。


IPv4枯渇問題をうまくかわす方法は?

残念ながら、IPv4の枯渇という問題は、今まで説明したとおり回避できそうもありません。このため、これらの問題とうまく付き合い、そして、うまく活用するしか方法はありません。

IPv4の枯渇という問題とIPv6へのシフトという問題は、別々に考えつつも、そのつながりを考えておかなくてはなりません。そのためには、まず実験的にでもいち早くIPv6を使い始めることが重要だと言えるでしょう。そして、その経験を生かして、IPv4からIPv6への移行計画を早めに立てる必要があるのです。

IPv4からIPv6への移行は、技術的な側面だけではありません。インターネット、そしてイントラネットの機材調達が必要な場合は、対応機器の購入計画など、会社全体としてその導入コスト、運用コスト、そしてそれらが実業に及ぼす影響なども考えながら移行計画を立案する必要があるのです。特にインターネット上でビジネスを展開する事業などでは、IPv4の枯渇とIPv6へのシフトは、直接的なリスクをはらみます。技術事と考えず会社全体、組織全体として協力体制を作る必要があるのです。

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